自分が自分であるために

南に面した山肌にはすっかり雪がない。

降り積もったまま、

まったく溶ける気配のない北面に立つ。

 

人工的な音が何もしない山の中では

吹く風が木から木を伝わって

冷気とともにゴォーっという音が回っている。

 

一本の木になってみる。

 

抗うでもなく、倒れるでもなく

吹く風に共鳴できるだろうか。

 

寒いと弱音を吐くでもなく

南面の木を妬むでもなく

不動で立ち続けられるだろうか。

 

枝の中に冬ごもりのために巣食った虫をついばみに来る鳥を

追い払うこともせず、

春の芽吹きを信じることができるだろうか。

 

音を感じ、風を感じ、

手袋もしていない手のひらの感覚がなくなる頃

ひとつの答えが降りてくる。

 

この場所を選んで根を張り、枝を広げ成長してきたのだ。

 

春は必ずやって来る。