本当の自分に出会う旅

お堂にひと足踏み入れて息をのむ。

 

秋田男鹿半島の真山の麓にある真山神社。

なまはげで有名なこの神社に

一万三千体の木彫小仏が壁一面に納められているお堂がある。

 

手相をじっと見ていると

手のひらが語るストーリーが浮き上がってくるように

一万三千体の仏像が私に語りかけてくるようだ。

 

一人ひとりの手のひらが違うように

木彫の仏像もまた一体一体違う表情を持っている。

 

ひとつひとつ表情を見ていくと

ここにも私、あそこにも私がいる。

 

喜びも悲しみも妬みも怒りも

一体ずつの感情が丁寧に供養されているのだ。

 

まさに一万三千人の自分に出会う旅。

 

あまりにも有名ななまはげの影に隠れて

人っ子ひとりいない忘れ去られたようなお堂で

こんな出会いがあるとは。

 

自分の中の幾通りもの自分。

昔の自分、今の自分、未来の自分。

怒っている自分、泣いている自分、笑っている自分。

旧知の自分、見ず知らずの自分。

その一人ひとりに挨拶をするように

三方の壁に納められた仏像と会話をし

なぜか深い安堵を覚えて下る山道。