生きて光りながら飛ぶ蛍を見るようになって何年だろう。
都会で生まれ育った私はとしまえんの昆虫館でしか蛍を見たことがなかった。
ここ青梅では蛍が生育する絶好の場所があり、
この地に住むようになってから梅雨の時期になると
毎年ナマ蛍を鑑賞している。
さらさらと流れる小川の音だけの暗闇の世界。
淡い緑色にふわりと光っては消える蛍たち。
外敵を驚かすためとも求愛行動とも言われる明滅は
闇があるからこそ役立つ光のコミュニケーション。
闇は苦悩、忍耐、迷い、不安、貧困、病気、差別。
それらがあるからこそ光る希望。
明るい場所では必要とされない光だからこそ
闇の意味があるのだ。
人間が渡れない小川の向こう岸に光る蛍たちからはぐれて
飛んできた一匹をそっとつかまえて葉の上に乗せてみる。
ずいぶん道を間違えてしまった蛍はそれでも淡く淡く光りながら
仲間たちとコミュニケーションをとろうとしているようだ。
ちゃんと自分の居場所へ戻るのよ、と手のひらにのせてそっと空に放つと
安心したかのようにほわっと光り闇の中に消えていった蛍は
いつかの私だったのかもしれない。
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