上れるはずの階段

駅までの道。毎朝上る階段。

この一段目の手前まで来ると頂上を見上げて身構える。

 

「うへぇ・・。いつになったら軽快に上れるんだろう。」

「右端を上る?それとも左端?

坂道はジグザグに登るとラクだと聞いたことがあるぞ。」

「途中で一回休む?いやいやそんな時間ないし。」

などなど頭の中は階段征服のことでいっぱい。

 

上り終えると心拍数は上がり、しばし息を整える。

やっぱり今日もダメだった・・の繰り返し。

 

急がば回れの言葉どおり、ちょっと回り道をすればこんな階段上らずに済む。

しかし自虐的性分なのか、負けず嫌いなのか、回り道はしない。

人間苦しい道を選べば能力が開花するはず、

こんな階段上れなくてどうする、これは修行だ、などと

自分に言い聞かせながら、階段を睨みつけ

飽きもせず上ってはハァハァと惨敗に終わっている。

 

ある日。

家を出てから足は勝手に駅に向かっていたが、

夢中で考え事をしていて問題のポイントにさしかかったのも覚えていない。

もちろん頂上を見上げることもなければ、ジグザグ上りもしていない。

気がついたのは階段を上り終えて、モッコウバラが美しく咲く次の曲がり角だった。

息が乱れていない。

なぜ?

 

潜在意識・・?!

若くないんだからこんな階段駆け上がるなんてできるわけないよ。

毎日繰り返し上り続けているのに一度も成功したことがないし。

どうせ私なんか・・・

 

頭の中では威勢のいいことを考えているふりをして

潜在意識ではそんな失敗経験の確認作業をしていただけなんじゃないのか。

 

潜在意識おそるべし。

 

待てよ・・

それじゃあその逆に、上れることを潜在意識に刷り込めばいいんじゃない。

どうやって・・?

自己暗示?無理無理。

だって暗示をかけた時点で顕在意識として存在してしまう。

 

たった一度の成功は無意識の下で達成することができた。

そうだ!無意識だ!

失敗も成功もない。階段も平地もない。気負いも落胆もない。

あるのはただ駅という目的地に向かって進むという行動だけ。

 

すばらしい解答を片手に意気揚々と家を出て明日の朝も階段に臨む。

らくらくと上れるはず・・だ。

 

あぁ、手に負えない潜在意識と格闘の日々。